先日、アリエクのインフルエンサー向けクーポンの配布条件が引き上げられた。「Instagramのフォロワー1000名以上」——複数のインフルエンサーがそう投稿していた。一見、ただの条件変更だ。だが当方には、これは一つの時代の“潮目”に見える。今日は「関税・在庫・クーポン」という三つの流れから、“アリエクが異常に安い時代”のこれからを読んでみたい。
実は#12「アリエクの認知について」で、当方はこう書いていた。アリエクは日本での認知が進めば、インフルエンサーにフィーを払って宣伝してもらう構図を縮小し、オウンドメディアやリタゲ、SEM/SEOといった“読める広告”へ重心を移していく——ECサイトが成熟する過程では定石だ、と。今回のインフルエンサー向けクーポンの絞り込み(ハードル引き上げ)は、まさにその予言の答え合わせである。「通常クーポンのみ」へ寄っていく流れは、思いつきではなく必然だった。
なぜ今なのか。背景には、はっきりした数字がある。アリエクを含むアリババの国際商業部門(AIDC)は、長らく巨額の赤字を垂れ流してシェアを“買って”きたが、直近の決算では赤字を縮小し、いよいよ黒字化の目前まで来た。黒字化のためにやることは決まっている。バラマキ——クーポン、補助金、インフルエンサーへのフィー——に規律を効かせることだ。インフルエンサー向けクーポンを絞るのは、その黒字化路線のひとコマにすぎない。プラットフォームは今、“シェアを買う段階”から“利益を回収する段階”へ移りつつある。
そして外側からも、同じ方向の力が吹いている。関税だ。米国はすでに、少額輸入を無税で通す「デミニミス」の抜け道を撤廃し、SHEINやTemu、アリエクの小包にも課税を始めた。越境ECが世界で享受してきた“制度の下駄”が、まず米国で外されたのだ。
これは他人事ではない。日本もいま、令和8年度の税制改正で、この免税制度の見直しに動いている。現行は「課税価格(個人輸入は小売価格の6割で計算)が1万円以下なら関税・消費税ゼロ」——ざっくり実売1万6千円くらいまでは税がかからなかった。改正の方向は、この“6割掛け”の特例を廃止し、さらに税抜1万円以下の輸入品にも消費税を課すというもの(海外プラットフォーム側が納税義務を負う形が検討されている)。施行時期こそ未定だが、米国・EUと足並みをそろえて方向は固まりつつある。つまり、日本のあなたのカートにも、遠からず“制度としての値上げ”が届く。
ただ、すべてが向かい風というわけでもない。米国が関税と免税撤廃で越境ECを締めれば、米国向けだった中国の在庫は行き場を探す。その一部は、まだ規制の緩い日本やEUへ流れてくる。だから当面は、日本のアリエクでむしろ品揃えが増え、“米国で弾かれた在庫の投げ売り”に出くわす場面もあるはずだ。締め付けの裏で吹く、短くて貴重な追い風である。
ここで一つ、よくある誤解も解いておきたい。「米国の対中関税は、日本のアリエク価格にも乗っているのか?」——直接には、ほぼ乗っていない。関税は“輸入する国”が自国の税関で取るものだから、米国の関税は米国に届く荷物にかかる。日本に届くあなたの小包に、米国の関税は関係ない。ただし間接的には効く。米国向けが細ればメーカーは価格や生産を調整し、人民元やドル円が動けば円換算の値段も動く。だから値上がりを見たら、それが「日本の制度変更(免税見直し)」由来なのか、「世界的なコスト・為替」由来なのかを切り分けて読むと、慌てずに済む。
整理しよう。内側ではプラットフォームが黒字化のためにバラマキを絞り、外側では各国が関税と免税撤廃で“下駄”を外す。「補助金とクーポンとデミニミスで異常に安い」時代は、静かに成熟へ向かっている。一方で、在庫還流という短い追い風も吹いている。ならば消費者としての最適解はこうだ。狙いの定番品は、下駄が残る“今のうち”に。そして買い方の軸を、「クーポンの多寡」から、「そもそも本当に安い定番」「米国で弾かれた還流在庫の投げ売り」を見抜く目へとアップデートすること。クーポンが細っても、賢い買い方まで無くなるわけではない。
#12で当方は「アリエクの成熟」を予言した。その成熟は、いよいよ我々消費者の“買い方”そのものにも変化を迫っている。見出しに一喜一憂するより、次の一手を淡々と。ニュースでは「米中の関税」「日本の少額輸入課税の行方」「インフルエンサー施策の縮小」の三つをセットで眺めておけば、自分の買い物への波及は十分に読める。
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