今日9/4、アリエクでゲーム機の価格が上がった。当方は特価一覧を定期的にポストしているので、こういう変化は日付単位で見える。だが、これを「セール(クーポン)が終わっただけ」と片づけると、たぶん本質を見誤る。この値上げは、一年かけて上流から降りてきた波の、いちばん最後の一滴なのである。
まず、2026年に何が起きたかを並べてみたい。4月2日、PS5が改定された。通常モデルが97,980円、PS5 Proが137,980円。5月25日、Switch 2が1万円上がった。8月1日、Xboxが上がり、Series Xのディスク版は799.99ドル、Series Sの512GBモデルに至っては英国で4割強の値上げとなった。据置機を出している三社が、同じ年に、数か月おきに、そろって値上げしている。これを偶然と読むのは無理がある。
原因は上流にある。調査会社TrendForceによれば、DRAMの価格は2026年第2四半期に前四半期比で58〜63%、NANDフラッシュは70〜75%上昇する見通しだった。四半期でこの上げ幅は尋常ではない。基板も同じで、消費者向けマザーボードに使われる板の価格は2026年中に前年比50%以上上がるとされ、ASUSやMSIといった大手が値上げに動いている。理由はどれも一つ、AIサーバーである。メモリメーカーはHBMとサーバー向けに生産能力を寄せ、PCやスマホ向けを絞った。基板もAI向けの高多層品に需要が張り付き、消費者向けの板が押し出された。我々が買うゲーム機は、データセンターと同じ部品を取り合っているのだ。
これは当方の推測ではない。任天堂の古川社長は、Switch 2の価格改定の理由を、メモリの高騰と為替をはじめとする中長期的な市場変化だと自ら説明している。当事者が認めているのだから、そういうことなのだろう。
そして、ここからが本題である。TrendForceは、2026年時点でメモリがハード原価に占める比率を、任天堂で21〜23%、ソニーとマイクロソフトでは35%超と見積もっている。本体原価の三分の一がメモリ。この数字を見たとき、当方は少し背筋が寒くなった。
なぜか。ゲーム機というのは伝統的に、本体を安く——場合によっては赤字で——売って台数を撒き、ソフトとサービスで回収するビジネスだったからだ。値下げは弱さの表れではなく、体力の証明だった。「うちはここまで下げられる」と示すことが、そのまま競争力だったのである。ところが原価の三分の一が、自社ではまったくコントロールできない部材で占められると、この方程式は成立しなくなる。実際TrendForceは、2026年のゲーム機出荷見通しを前年比3.5%減から4.4%減へ引き下げたうえで、メーカーは安く売って台数を稼ぐという歴史的な戦略を捨てざるを得ない、と書いている。値下げが、体力の証明から自傷行為へと意味を変えたのだ。
では、アリエクではどうなっているのか。ここは当方の手元にデータがある。8月14日と9月1日、それぞれ特価一覧を作っているので、同じ商品の価格を突き合わせられる。両方に載っていたのは115件だけで、しかも特価どうしの比較だから割引率の違いは混ざる。その前提で見てほしいのだが、値上がりが77件、値下がりが33件、変化率の中央値は3.1%の上昇だった。わずか二週間半でこれである。
面白いのは、上がった商品の顔ぶれのほうだ。据置型のDACとヘッドフォンアンプが44%と42%、ミニPCが34%、マイコンの開発ボードが24%、ゲーミングタブレットが23%。並べてみて、当方は思わず唸った。全部、メモリか基板を大量に使う製品なのである。逆に下がっていたのは、電動工具の互換バッテリー、ポータブルコーヒーマシン、旧世代のエンタープライズSSDの在庫処分、テレビ。部材高騰と縁が薄いか、在庫を吐きに来ている商品ばかりだ。上流で起きている話が、そのままアリエクの棚に出ている。
ところが、ゲーム機だけは9月1日の時点でまだ上がっていなかった。Switch 2の国内版セットはむしろわずかに下がっており、旧世代の有機ELモデルには一割ほど値を落としたものもあった。上がったのは今日である。部品から始まり、周辺機器やPCパーツを経て、最後に完成品へ届く——製造業として、順番はまったく教科書どおりだ。波の到達に、およそ一か月の時差があったということになる。
ここで、日本だけの特殊事情にも触れておきたい。PS5には日本語専用モデルがあり、これは4月の値上げでも55,000円のまま据え置かれた。日本のアカウントでしかアクティベートできない仕様である。Switch 2にも国内専用版がある。安く出す、ただし国外には出さない。これは要するに、リージョンロックの再発明だ。円安で日本が世界最安の市場になり、買って海外へ流すだけで差益が出るようになった以上、メーカーとしては当然の防御である。日本人は世界でいちばん安く買えるが、その端末は日本から出られない。安さと引き換えに、我々は自由を少しだけ差し出している。
裏を返せば、ロックの掛かっていないもの——通常モデル、Pro、周辺機器、パーツ、そして中古——は、世界の価格にそのまま晒されているということでもある。実際、深刻な品薄に陥っているのはPS5 Proのほうで、大手量販店で完売が相次ぎ、20万円台をつける店まで出ている。ロックがある機種は国内に留まり、ない機種は流れていく。同じメーカーの同じ世代で、これほど景色が違うのは示唆的だと思う。
そろそろ、この回の結論を書きたい。2026年に終わったのは、「待てば安くなる」という前提である。当方も含め、我々は三十年ほど、それを常識として買い物をしてきた。新型は高い、だが一年待てば下がる、二年待てば型落ちが投げ売られる。その常識が、今年、据置機三社によって同時に否定された。誤解のないように書いておくが、当方は「今すぐ買え」と言いたいのではない。急かされて買った買い物は、たいてい後悔する。そうではなく、判断基準そのものを入れ替える必要がある、という話だ。「安くなるまで待つ」から、「必要かどうかで決める」へ。待っても下がらないのなら、待つという行為には、もはや何の情報価値もない。
当方はこれからも特価一覧を作り続けるので、この波がどこまで来るかは日付付きで記録が残る。次に見るべきは、アリエクのゲーム機価格が今日の水準で止まるのか、それとも国内定価の改定を追いかけてさらに上がるのかだ。時差が縮むなら、越境で買う妙味もその分だけ薄くなる。見出しの数字に一喜一憂せず、自分で取った価格の記録という一番正直な指標を、淡々と眺めていきたいと思う。
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