11月1日の夜、Xでこうポストした。表示は1.3万件ほどだった。
アリエクで売られているDDR5のメモリ(中国製造)、セール始まったらチョイお安く売られている感以外に、暴落の前兆始まっている気がするんだけど。多分、在庫がだぶつき始めている気がするぜ!
続けて、「AIデータセンターで使うのはチップそのもので、DDR5は少ない」「最低半値以下にはなると思う」「グラボがフリマで売れていないのが兆候」「アリエクで買えなかったDDR5が買えるようになった」とも書いた。どれも肌感覚の話である。そこで今回は、直接の証拠ではなく、出典の取れる状況証拠を集めて、「暴落の予兆」として筋が通るかを確かめる。関連は#47(日本のメモリの値段)と#49(GPU高騰とローカルLLM)である。
先に結論
- 直接の証拠は、まだない。10月時点で、国内の店頭価格も、大手の契約価格の予想も、上昇を続けている。
- ただし、予兆と読める状況証拠は、そろい始めている。中国のデータセンターの作りすぎ、中国メーカーCXMTの増産、米国のデータセンターの遅れ、AIインフラ企業の資金繰り不安、そして株式市場の警戒である。
- いちばん筋が通る読み:崩れるなら、まず中国製のDDR5から。中国国内の需要が冷え、国内で吸収されていた増産分があふれて、アリエクに流れてくる――という経路は、集めた事実と整合する。
- 位置づけ:「世界のDDR5が最低半値」は、業界の予想より先回りした見方である。この回は、暴落の断定ではなく、予兆の観察として読んでほしい。
前提 足元の価格は、まだ上がっている
まず現在地を確認する。秋葉原の店頭では、10月後半もDDR5の値上がりが続いた。64GBのキットは、在庫を持つ店自体が減っている。
| 時期 | 対象(秋葉原の店頭) | 価格(円) | 前回比(円) |
|---|---|---|---|
| 10月後半 | DDR5-5600 16GB×2(最安) | 59,980 | +5,180 |
| 10月後半 | DDR5-6000 16GB×2(最安) | 72,980 | +4,010 |
| 10月後半 | DDR5-5600 32GB×2(最安) | 104,980 | +7,000 |
| 10月前半 | DDR5-5600 64GB×2(平均) | 399,886 | +66,786 |
大手の取引価格も同じ向きである。TrendForceは、10〜12月の汎用DRAMの契約価格を、前期比10〜15%の上昇と予想している。10月のDDR4(8Gb)の平均契約価格は27.50ドルで、9月から5.77%上がり、過去最高を更新したと報じられている。
つまり、「暴落が始まった」と言える数字は、まだどこにも出ていない。以下は、その手前で起きている変化の話である。
状況証拠1 中国のAIデータセンターは、作りすぎている
- 2025年春の時点で過剰:中国では、ChatGPTの登場後に500を超える地方の計画が立ち、データセンターの建設ラッシュが起きた。ところが、NVIDIA H100を8基積んだサーバーの月額レンタル料は、ピークの約18万元から約7.5万元まで下がったと報じられた。新設の容量の最大8割が使われていない、という試算も紹介されている(1つの試算で、確定値ではない)。
- 2026年2月、中国最大の半導体メーカーが警告:SMICの共同CEOは、急いで作られたAIデータセンターが遊休化する恐れがあり、何に使うかが「十分に検討されていない」と述べた。政策で西部に作られた施設の多くは、稼働率が20〜30%にとどまるという。
- ただし:アリババ、ByteDance、中国移動などの大手は、投資を続けている。冷えているのは、補助金を目当てに参入した中小が中心である。
状況証拠2 中国のメモリメーカーCXMTが、急速に増産している
- 生産能力:CXMTの月間のウエハー生産能力は、いまの約32万枚から、2027年に約42万枚、2028年末に50万〜60万枚へ増える見通しと報じられている。2026年末には、米Micron(約37.5万枚)に迫るという分析もある。
- サーバー向けにも進出:2026年10月の会議で、CXMTの総裁は、新しいセル構造(4F2)を使ったサーバー向けDDR5 RDIMMを年内に出すと表明した。2026年4〜6月のDRAM売上シェアは9.5%で、世界4位である。
- 市場の反応:10月13日、SamsungとSK hynixの株価が7%超下がった。中国勢による供給過剰を、市場が意識し始めた兆しと読める。
- アリエクとのつながり:7月の時点では、CXMTの増産分は「大半は中国国内の需要に吸収される」とされていた。状況証拠1のとおり国内のデータセンター需要が冷えれば、吸収しきれない分は国外や一般向けに回る。「アリエクで買えなかったDDR5が買えるようになった」という観察は、この経路と合う。
状況証拠3 米国のデータセンターは、電力で詰まっている
- 計画の約半分が遅れ:2026年に予定された米国のデータセンターの約半分が、遅延か中止に直面していると報じられている(TechSpotの記事を引いた解説、2026年4月)。
- 原因は需要ではなく電力:大型の変圧器は、2020年以前は納期24〜30か月だったものが、約5年かかり、価格も倍になったという。チップはあっても、つなぐ電力設備がない。
- 意味:建物や電気が間に合わなければ、サーバーとメモリの購入も後ろにずれる。需要が消えたわけではないが、短期的にはサーバー向けDRAMの伸びを鈍らせる方向に働く。
状況証拠4 AIインフラ企業の資金繰りに、不安が出ている
- CoreWeaveの株価:AI向けクラウドのCoreWeaveは、10月中旬の1週間で20%以上下がった。10月23日の終値は54.24ドルで、52週高値の141.79ドルの半分以下である。
- 理由は財務:債務は約350億ドルで、現金は約55億ドル。無担保社債の利回りは15%近くまで上がり、S&Pの格付けはB+(投機的水準)である。2026年の設備投資は最大390億ドルで、売上見通し(124億〜132億ドル)の約3倍にあたる。
- 大手の設備投資にも陰り:10月28日、Microsoftの設備投資が予想を下回ったことを受けて、CoreWeaveなどのAIクラウド各社の株がそろって下げたと報じられた。
- ただし:CoreWeaveの需要そのものは強く、4〜6月の売上は前年比112%増、受注残は1,040億ドルを超える。これは「需要がない」証拠ではなく、「お金が続くか」の不安である。
状況証拠5 アリエクの売り場で起きていること(筆者の観察)
ここは数字で測ったものではなく、毎日売り場を見ている筆者の観察である。セールに入ってから、中国製チップのDDR5がわずかに安くなり、以前は在庫がなく買えなかったDDR5が買えるようになった。状況証拠1と2の経路が正しければ、最初に変化が見えるのは、中国製のメモリが直接並ぶアリエクの売り場のはずである。その意味で、この観察は「予兆の現場」になりうる。
反証 ポストのうち、弱い・事実と違うところ
自分のポストにも、検証すると弱い部分があった。正直に並べておく。
| ポストの主張 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| AIデータセンターで使うのはチップで、DDR5は少ない | 事実と違う | AIサーバーは、GPUのHBMとは別に、サーバー向けDDR5(RDIMM)を大量に積む。今回の高騰は、メーカーが利益率の高いHBMとサーバー向けDRAMに生産を振り向け、PC向けが絞られたことが主因とされる |
| グラボがフリマで売れていないのが兆候 | 根拠が弱い | GPUとメモリは別の市場で、売れ行きを示す数字も取れていない |
| (補強として考えた)ローカルLLMの台頭 | 逆向き | ローカルLLMは、個人のPCに64GBや128GBのメモリを積ませる方向に働く。一般向けDDR5の需要を増やす材料である |
| 最低半値以下になる | 業界予想より強気 | PC向けDDR5の値下がりは2028年からで、幅は平均15〜20%にとどまるという予測がある。2030年も世界のDRAMは約25%不足するという分析もある |
| アリエクの中国製DDR5がだぶつき始めた | 状況証拠と整合 | 中国のデータセンター過剰とCXMTの増産から、国内で吸収しきれない分が出てくる経路が説明できる |
推論 予兆をつなぐと、こう読める
状況証拠を、DDR5の値段への効き方で整理する。強さは筆者の評価である。
| 予兆 | DDR5価格への向き | 強さ | 効く範囲 |
|---|---|---|---|
| 中国のデータセンター過剰 | 下げ | 中 | 中国国内のサーバー需要 |
| CXMTの増産 | 下げ | 強 | 中国製DDR5(2027〜2028年に本格化) |
| 米国のデータセンターの遅れ | 下げ(一時的) | 弱〜中 | サーバー向けDRAMの購入時期 |
| AIインフラの資金繰り不安 | 下げ(先行) | 中 | 今後の設備投資の伸び |
| 米大手の旺盛な投資・HBMへの生産シフト | 上げ | 強 | 世界全体のDRAM |
| ローカルLLMの広がり | 上げ | 弱 | 一般向けDDR5 |
下げの材料は、どれも「需要が消えた」ではなく、「お金と電力が詰まって伸びが鈍り始めた」ところに、中国勢の増産が重なる、という形である。メモリは市況品で、設備投資の伸びが鈍ったところで値段が一気に向きを変えることがある。ただ、上げの材料(米大手の投資とHBMへの生産シフト)は、いまも最も強い。
そのため、もし崩れるなら、順番は次のようになると読む。
- ①アリエクの中国製DDR5:中国国内であふれた分が、最初に直接並ぶ場所。いま「兆し」が見えているのはここ。
- ②スポット価格:業者間で即日取引される価格。契約価格より先に動く。
- ③大手の契約価格:四半期ごとの取引価格。TrendForceの予想は、10〜12月もまだ上昇。
- ④国内の店頭価格:在庫の入れ替わりがあるため、最後に動く(#47で見た「高騰前の在庫」の話と同じ)。
確認できなかったこと
- アリエクの中国製DDR5の値下がりと在庫の増加を示す、測った数字。状況証拠5は観察である。
- 中国国内のサーバー向けDRAMの需要量と、CXMTの出荷先の内訳(国内・国外・一般向け)。
- Microsoftの設備投資が「予想を下回った」具体的な額。今回は報道の見出しまでしか確認していない。
- DRAMのスポット価格の直近の動き。
これから見ておく指標
- アリエクの中国製DDR5の価格と在庫:当サイトの価格トラッカーで追えば、肌感覚を数字にできる。次回以降で取り上げたい。
- DRAMのスポット価格:契約価格より先に向きを変える。
- 米大手クラウドの設備投資の見通し:四半期ごとの決算で出る。下方修正が続けば、下げの予兆が強まる。
- Samsung・SK hynix・Micronの株価:供給過剰の懸念を、市場がどう値付けしているかの目安。
- CXMTのDDR5 RDIMMの出荷:サーバー向けに本格的に出てくれば、中国製DDR5の供給は一段と増える。
買う側の判断材料
- 急がないなら:①の「アリエクの中国製DDR5」から先に崩れるという読みが正しければ、待つことで得をする可能性はある。ただ、国内の店頭や大手の予想は、まだ上昇である。
- すぐ必要なら:64GB以上のキットは、在庫を持つ店が減っている。必要な容量が決まっているなら、見送るリスクも考えておきたい。
- 中国製チップのDDR5を選ぶなら:マザーボードとの相性や、保証・返品の条件を確かめてから買う。
※あくまでも意見論評の範囲で~
参考データ
本文の数字と見解の出典は、すべてこの欄にまとめている。本文で実際に開いたページだけを載せ、記事の日付はページに記載のものとし、記載がないものは「日付不明」とした。
・AKIBA PC Hotline!|10月前半のメモリ価格(調査期間 2026/9/26〜10/10)― 64GB×2枚組が約40万円
・ゲームPCの秘密基地|国内BTO市場・週間ブリーフィング 10月第5週(調査期間 2026/10/17〜10/24)― DDR5の続騰、64GBキットの在庫減少
・Tech Insider|DRAM Hits Record as NAND Ends 21-Month Climb(2026/10)― DDR4の契約価格、TrendForceの10〜12月予想、生産の振り向け
・Light Reading|Tumbling prices end China's AI data center binge(2025/4/1)― 中国のGPUサーバーのレンタル料、遊休率の試算
・Tom's Hardware|SMICトップの警告(2026/2/11)― 遊休化の懸念、西部の施設の稼働率
・GAZLOG|CXMTが年内にMicron級の生産能力に到達へ(2026/7/16)― 生産能力、増産分の国内吸収、2030年の供給不足予測
・GAZLOG|CXMTのDRAM生産能力は2028年末にほぼ倍増へ(2026/10/21)― 生産能力の見通し、2028年の値下がり幅の予測
・@IT 頭脳放談|中国半導体メーカー「CXMT」が引き起こすDRAM市場の大改編(2026/10/23)― 4F2のRDIMM、売上シェア、10/13の株価
・Half of AI data centers are delayed and canceled(2026/4/9、TechSpotなどの報道の要約)― 米国の計画の遅延、変圧器の納期
・The Motley Fool|CoreWeave Dropped 20% Last Week(2026/10/19)― 株価、債務、設備投資、受注残
・CNBC|Neocloud stocks drop after Microsoft capex comes in below expectations(2026/10/28)― 見出しのみ確認
メモリ不足や需要の原因、価格の予測は、すべて報道・調査会社・解説記事の見解であり、メーカーの一次資料で直接確認したものではない。
・関連:アリエク経済学47(日本のメモリは、なぜ世界で一番安いのか)/アリエク経済学49(GPU高騰は国内企業のローカルLLM需要が原因か?)
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